戦前と戦後の「独断専行」

年明けましておめでとうございます。今年も当ブログ「鬱々日記」をよろしくお願いします。


新年一発目の小欄は、最近読んだ本より、戦前と戦後の「独断専行」に関して考えてみようと思う。
管理人はつい昨日、【ミグ25事件の真相〜闇に葬られた防衛出動】*1を読み終わった。少々古い本で、しかも内容はと云えば、前世紀の事件に関するものであったが、しかしながら現在の情勢を語るにも不足しないものであった。
簡単に概要を説明しよう。
1976年9月6日、ソ連空軍に所属するベレンコ中尉は沿海州チェグエフカ空軍基地から訓練目的で離陸。演習空域への移動中、突如編隊を離れ北海道方面へと機首を移した。これを日本のレーダーが捉え、領空侵犯の恐れがあるとして急遽航空自衛隊千歳基地のF-4EJがスクランブル発進。現在の函館空港航空自衛隊は地上のレーダーと空中のF-4EJの双方で日本へ向かってくるMiG-25を探すが、レーダーサイトのレーダーはMiG-25が低空飛行に移ると探知することはできず、またF-4EJのレーダーは上空から低空目標を探す能力(ルックダウン能力)が低く、MiG-25は自衛隊から発見されずに北海道の函館空港に強行着陸した。
これがMiG25亡命事件の一部始終である。この後、空港は北海道警が封鎖し自衛隊の立ち入る隙はなくなった。しかしながら、スイス駐在米国大使館付武官よりソ連軍が特殊部隊を派遣し機体の奪回、もしくは破壊を計画しているとの情報が入り、陸上自衛隊は臨戦態勢へと移行する。だがこれを行う中、様々な政治的・技術的制約が明らかとなってゆく。現場部隊や上級司令部はそれらを時には法の隙間を縫いながら克服してゆき、ソ連軍の迎撃体制を構築する。
結果として、ソ連軍は侵攻を断念した形となったが、迎撃体制構築の際に明らかとなった問題点はそのまま改善点となる。技術的・ハード面の改善は軒並み行われたものの、ソフト面、その中でも特に部隊派遣に関する法的根拠に関するものは未だに改善されていないままである。

さて、このミグ25亡命事件とそれ以降のミグ25機体のソ連への返還までは戦後日本が最も戦争に近づいた日々であった。時は冷戦の最中である。ミグ25は当時のソ連空軍の主力戦闘機であり、その性能の解明は西側諸国の諜報活動の主目的の一つであった。逆に云えば、ソ連軍としてはミグ25の情報が西側に漏れること、また、パイロットへの尋問によるソ連軍内部の情報漏えいは必ず避けなければならない問題であり、二種のうち、比較的容易なミグ25奪回、もしくは破壊は可能である限りなさなければならないミッションであった。
しかしながら、時の三木総理は政争を優先しこれを無視。防衛出動どころか、総理はこの可能性を黙殺した。結果、自衛隊、特に陸上自衛隊は単独で本件に対応するほかなくなり、戦後日本の最初の戦闘は「独断専行」によるものとなりかけていた。
この「独断専行」であるが、戦前日本は陸軍、特に大陸派遣の関東軍の「独断専行」により亡国となったとすら云われる「悪名高い」ものである。戦前の陸軍は「イニシアチブ」を「独断専行」と訳し、時の天皇陛下の命令なくしても現場部隊指揮官の一存で部隊を動かせるとする理論の柱とした。ちなみに、「イニシアチブ」とは「主導権」という意味の方が主である。「独断専行」による先制で「主導権」を握る、とでも考えたのであろう。
戦後日本は「戦前の反省」と称し、国軍を廃止するとした憲法を制定した。しかしながらこれはあまりにも「国家」からかけ離れているとし自衛隊が組織されることとなったが、しかしながら、やはり「戦前の反省」として「ブンミントウセイノテッテイ」が叫ばれている。これにより、自衛隊の武器使用は強く制限され、また現場指揮官の柔軟な判断は奪われた。さらに、時時の内閣首班、すなわち総理大臣は政争に際しての自身のウィークポイントとなることを恐れて国軍最高司令官としての職務を放棄してきたに等しい。また、自衛隊が起こりうる危機に対しての対処に必要な法的根拠の整備はまだなされていないと云っても過言ではない。これらの条件が、戦後日本の自衛隊指揮官に対してもしものとき「独断専行」を強いる現状を作り上げている。
著者である大小田八尋氏は、同書を『(自衛隊幹部に)……とりわけ独断専行するくらいの気概を持った人材を登用することが重要である』と〆ている。皮肉にも、「戦前の反省」の名のもと行われてきた諸軍政が「独断専行」を現場指揮官に強要しているのである。
イムリーにも、先年の末には国会に於いて、ゴジラやUFO襲来に際しての自衛隊の出動に関する議論がなされていた。大多数の国民はあの答弁を莫迦げたものとあきれ返ったであろうが、現実としてあの答弁が現行憲法及び自衛隊法の限界なのである。あの答弁にあきれ返った国民の皆様は、この現状を知っていただきたい。








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鬱々日記〜特定アジア3面記事編



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*1:

ミグ25事件の真相―闇に葬られた防衛出動 (学研M文庫)

ミグ25事件の真相―闇に葬られた防衛出動 (学研M文庫)