半藤一利氏に問う。日米交渉を打ち壊したのはアメリカ側ではないのか?

ちょっと前に、【あの戦争になぜ負けたのか/文春新書】を読んだ。これは、半藤一利氏・保坂正康氏・中西輝政氏・戸高一成氏・福田和也先生・加藤陽子女史の対談をまとめたものなのだが、最後に、対談では語りきれなかったことを各自が寄稿していた。その中で、最近、『昭和史』を著し昭和の大家としての地位を揺るぎないものにした半藤氏の『空しかった首脳会談』に違和感を覚えた。
氏はこの中で、日米開戦ぎりぎりまで行なわれていた外交交渉、特に幻の日米首脳会談について触れている。詳細は省くが、昭和16年夏、日米開戦がまことしやかに囁かれる中、時の首相であった近衛文麿は戦争回避のために米・ルーズベルト大統領に首脳会談を持ちかけていたのである。
この提案にはルーズベルト大統領も乗り気であったようで会談は実現寸前までいく。だが、日本の対米感情は悪化の一途をたどっており、戦争回避が目的たるこん会談の調整は極秘裡に行なわれていた。近衛首相も死を賭して調整にあたっていた。
実現寸前までいったこの会談は皆様のお知りの通り、史実とはならなかった。原因は半藤氏もこう書いている。
以下引用

ところが、何とも不運なことは、ほとんど時を合わせるように、近衛書簡の内容の概ねが洩れてアメリカの新聞に発表されてしまう。すべてを極秘裡に運んでいた日本政府は、これにあわてふためかざるをえない。急いで国内報道を禁止したが、ザルの目から水がこぼれるように然るべきところに流れでていく。日本政府はアメリカに泣きをいれた!対米強硬・親ドイツ派の右翼や少壮軍人や軽噪な言論人は、この報に激昂した。(以下略)

この部分を読めばわかるよう、原因はアメリカ側のリークであった。だが、半藤氏はこう結ぶのだ。

日本国内の世論の熱狂が、アメリカ首脳にいい口実を与えたことになる。こうして一気に、首脳会談の望みは微塵に砕け散ったのである。

なんと軽薄な結論であろうか。あの状況での情報リークが、本当に不慮の事故であるはずがない。確実に何らかの意図をもったリークに違いないことは簡単に予想が付く。そして、そのリークを行なったのが、日米開戦回避により打撃を受けかねない、支那もしくは大英帝国であることもだ。なぜそこまで考えが回らず、まるで日本人が勝手に狂乱していたかのように書くのか不思議でならない。対談内では米政府内に数百人もの共産系(ソ連中共系)スパイが潜り込んでいたことも触れられているのにである。あの名高き半藤氏のだした結論とは思えない思考停止具合である。